ひとつの解としての作品「D51-651」

 

こんにちは。前回の記事含め、鉄ミュ関連お星様投げていただきありがとうございました。

 

ということで鉄ミュに続き、鉄道関連の舞台 「D51-651」観てきました。

 

ishii-mitsuzo.com

 

たまたまフォロワーさんがRTしているのを見てふらっと下北沢行っていきました。

f:id:hoshinohitomi0:20180705192559j:image

実はお初のシモキタ舞台だった。本多劇場とか行ってみたいけどなかなか行く機会なかったんですよね。小劇場もトンダカラ以来でした。昨年、推しさんたち大きい舞台多かったからね。推しも出てないしただただ作品が気になるからという理由での観劇も久しぶりで。学生チケットもあったんですが、残念ながら知った時には売り切れていたので(学生最後の年だから活用したかった)、当日引換券で観劇してきました。それでも4000円だから安い。

一言で感想を言うとすごく面白かったです。あのあつさがぶわっと劇場全体を包んでいて何が起きているのかわからない得体の知れない気持ち悪さ。息をするのも忘れるほど観入ってしまいました。終わった後に素直に面白かったって出るのもすごいなぁと思います。劇場出て気づいたら駅についてたし。

 

この作品の元となった下山事件国鉄三大ミステリーの一つで昭和未解決事件でも相当有名な事件だと思います。

下山事件 - Wikipedia

初代国鉄総裁が就任してわずか一ヶ月ほどで常磐線の線路で轢断された死体が発見された事件です。自殺説、他殺説どちらもあったのですが、結局殺害事件としての時効が成立し未解決事件になりました。

下山総裁の当日の動きや国鉄内での不満(第一次整理通告*1の次の日だった)、解剖結果などいろんな情報があったにもかかわらず真実は握りつぶされたような事件。もう事件に関わった人物たちはこの世にいないだろうからこの事件は解決されることがないまま残っていくのだろうと思います。解決されることのない事件の一つの解がこの作品「D51-651」でした。

 

もともと私自身、青春鉄道でこの事件自体のことは知っていた(in the box.で下山事件という言葉は出ていた)ということとミステリー小説などが好き、ということで事件概要は知っていました。実際に人が亡くなった事件なので大ぴらには言えないですけど、謎がありすぎるこの事件、小説としてワクワクしながら読みたかったなと思います。事実は小説より奇なりということで。怪人21面相や三億円事件も当時のことを知らないからこそ読み物や作品としてすごく面白いです。不謹慎だと思いますが。

作品は史実通りだったかな。歴史として残っている下山事件としての表だけではなくその事件の当事者たちのお話でした。轢いたD51-651を運転していた3人と弁護士と警察と役人。たったこれだけの人数であの狭い空間であの日を見たような感覚です。

 

まず、美術がすごかった。D51-651の再現度の高さ。どこかに展示してほしい。本物がそこにあるんじゃないか、と思わせるほどでした。また、下手側にはレールもひいてあり(最初見えずに途中で気づいたからびっくりした)、後ろ側にも全面にD51-651。奥行がある舞台だったから面白かったな。D51-651が動き出した時の高揚感はすごかった。本当にあの美術だけでも見てほしいです。

 

音楽もJAZZで時代を表現されていたなぁと思います。結構音楽の印象が残るぐらい作品にマッチしていて音楽に感情を動かされたところも多かったです。あと、音!機関車の走る音とか結構爆音で自分が轢かれるんじゃないかな、と錯覚した。同時に照明も良く、かっこよかった。取り調べの時の照明やばいですよね。あのシーン全体的に好きだった。取り調べで受けている後ろにD51-651の文字が見えてるの格好良すぎるでしょ。

 

運転していた2人の関係性がTHE国鉄という感じで好きだった。体育会系の感じ。でも、機関士の王寺さんは愛情深くてぶっきらぼうな言い方も仲間を守るためだったのかな、と思わされた。背中がすごくかっこよくてその背中を見れる機関助士のイチは羨ましいなぁとも思います。同時に助士は愚直なまでに素直な青年で可愛がられる後輩だった。仲間を信じて尊敬して愛されている人。車掌である瀬野は、国鉄労働組合の人でもある。役人になりたくなくて乗務員になってすごく頭のいい人なんだけどその分危険分子的存在として解雇通告されるから何も信用できないですよね…。

弁護士・末永ははまり役で凄かった。ちょっと胡散臭い(インテリ系)感じもあるんだけど、最後まで味方な存在、というより事件の全貌が知りたい。もしかしたら、事件の当事者ではない部外者の彼は一番観客に近い存在で事件に関わっていたのかな、と思います。同じように事件の全貌を解明したい刑事の高岡。目的は同じだけど対立関係のような感じだったのかな…。弁護士と警察って理解し合えない関係なんですかね…。最後、虚実を話しているとわかっていながら聞いて「これでもう一度捜査ができる」と言い放った姿は素直にかっこよかった。同時に未解決事件として時効が成立した時、彼はどう思ったのか。彼だけではなく全員どう思ったんですかね。運転士の方は事件から数年後、ストレス性の胃潰瘍で亡くなってしまったようですが、ほかの方たちは時効成立まで生きていたんでしょうか…。

一番面白かったな、と思ったのは役人の使い方。正直、役人の立場をわかってからもう一度見た方が面白かったんだろうなと思います。時間があればもう一回観たかった。それぐらい終わった後、役人のいた場所、言葉のピースがはまりました。他の登場人物たちは名前があるのですが、役人は名前を名乗らないんですよ。最初は警察にこの事件から手を引けと警告したりしていたので自分が不利になるから、と思いましたが、この役人一人じゃなくて何人もの役人なんですよね。時には下山総裁であり、もしかしたら警告した役人は犯人の一人かもしれない。また真面目な人でもあり、幽霊でもある。作品としても幽霊のような存在だったと思います。ゾッとしたセリフが多く、一番気持ち悪かった人。そして最後、一番希望を持ってた人でした。

終わり方、どうなるのだろうかと途中からワクワクしていたのですが、いい意味で裏切られた終わり方で。あんなに多くの疑惑やドロドロした空気が初めから最後まであるのに最後はパッと晴れ間が差したように爽やかに終わるんですよ。この作品がこんなに爽やかに終わるのかと意表をつかれました。びっくりする。本当に想像していなかった終わり方だった。

 

 観に行ってよかった。「三億円事件」と「怪人21面相」も観たかったな、と今更後悔してます。DVD化…は多分してないよね…。やっぱり舞台は生で見るのが一番だと思いますが、こうして後から作品を知った時に見れるDVDって偉大ですね…。まぁだから劇場に足を運ぶことが楽しいんだけど。難しいなぁ…。

 

D51-651、本当に面白い舞台でした。昭和の仕事をしてる男たちって仕事に誇りを持っててすごくかっこいいなぁと思います。渋くてかっこよかった。2時間笑いなしのストレートプレイ、こんなにワクワクして美しい舞台はなかなかない。素敵な舞台をありがとうございました。

 

 

 

 「D51-651」

演出:和田憲明

脚本:野木萌葱

出演:福本伸一・俵木藤汰・伊達暁・石田佳央・谷山知宏・大薮丘

日程:2018.06.23-07.01

劇場:シアター711

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:全公務員28万人のなか、国鉄は約10万人の人員削減を迫られ、第一次の通告では37000人が対象となった。